前回、現在わかっている新型コロナウイルスの実態や、「エアロゾル感染」という言葉が招く誤解、空気感染の可能性はほぼないことについてお伝えしました。
今回は、インフルエンザより新型コロナウイルスの感染拡大が警戒される理由についてお話ししていきます。
風邪ぎみなのに風邪薬や解熱剤を使用して無理して仕事に行くと、免疫反応に向けるエネルギーが仕事に奪われてしまいます。
仕事によるストレスは、免疫反応を弱めます。
風邪かな? と思ったら仕事を休んで、家にいるのが大正解です。
「風邪症状があるときは仕事を休む」ことには、ちゃんと意味があるのです。
新型コロナウイルス感染も、多くの場合は特に治療をしなくても、免疫反応により「自然に」治ると言われています。
ただし、高齢の方や、糖尿病・心疾患・腎機能障害などの基礎疾患がある方、抗がん剤や免疫抑制薬を使用している方は、免疫反応が追いつかず、肺の中にまでウイルスが広がって重症化することがあります。
そのため、ウイルスの増殖を抑制する薬が実用化すれば、重症化を抑えられるのではないかと期待されています。
では、日本だけで3,000人以上が死亡する年もある季節性インフルエンザと比べ、新型コロナウイルスはまだそれほど多くの死亡者数が出ているわけではありませんが、ここまでの対策が必要とされる理由は何なのでしょうか?
季節性インフルエンザで急激なピークが発生しません。
季節性のインフルエンザには、「免疫記憶」の積み重ねがあるからです。
人間がインフルエンザに感染すると、1~3日の短い潜伏期間を経てウイルスが急増し、感染細胞から細胞間の情報伝達を担うサイトカインが大量に作られます。
サイトカインは全身をめぐり、高熱や全身倦怠感などの症状を引き起こします。
その後、ウイルスに対する獲得免疫反応がゆっくり起こりはじめ、ウイルスに感染した細胞やウイルス粒子が排除されます。
このとき、ウイルスの再侵入に備えて免疫記憶細胞(メモリー細胞)が作られます。
同じウイルスが再び侵入してきたときは、メモリー細胞が急激に増え、大量の抗体を素早く作ったりして、症状がほとんど出ないうちにウイルスを排除します。
インフルエンザは同じ型であれば1シーズンに2度かかることはないといわれますが、実際にはかかっているけれど症状が出ないうちに治っているのです。
インフルエンザはシーズンによって流行する型が異なります。
突然変異により構造が少し変わったウイルスができて、以降のシーズンに流行する可能性があるのです。
昨シーズン流行したウイルスのタンパク質にあった「インフルエンザ」という目印が、今シーズンは「インふルエんザ」になっているようなイメージです。
同じ亜型(細分化された型)のインフルエンザウイルスであれば、少し変異していてもメモリー細胞はほぼ同じように対応できます。
当然ながら、ワクチンを接種している場合は対応できる割合がもっと高くなります。
メモリー細胞を持つ人が多いほど、急激なピークの発生を抑えられます。
集団にそのウイルスに対するメモリー細胞を持たない人がいたとしても、周囲にメモリー細胞を持つ人たちがいれば、ウイルス感染の広がりはメモリー細胞を持つ人のところで断ち切られます。
そうなると、集団全体として感染者数が増えるスピードは低下します。
これを集団免疫の効果といい、季節性インフルエンザの流行のピークがゆるやかなのはそのためです。
新型インフルエンザのように新しい型のウイルスが現れると、流行のピークが激しくなります。
そして今回の新型コロナウイルスにおいても同じです。
今回の新型コロナウイルスは、人類がこれまで感染してきたコロナウイルスとはかなり異なる部分があるようです。
細胞に取り付くスパイク部分は、SARSコロナウイルスによく似たところもみられるようですが、SARSコロナウイルスに対する抗体にはほとんど反応しないことがわかっています。
そのため、急激なピークが発生しやすくなります。
もうひとつ注意しなければならないのが、急速に重い症状が出ないことです。
大多数の感染者、特に若年層においては、無症状か鼻風邪程度の軽症でおさまります。
症状が強くないので、普通に外に出て動き回ると、周囲に感染を広げてしまうのです。
一方、高齢の方を中心に致死率が高いことが報告されています。
現時点ではワクチンもありませんし、集団レベルの免疫反応で感染拡大を抑えることは難しいので、感染の連鎖を断ち切るためには、物理的もしくは化学的な対策を講じるしかないようです。
新型コロナウイルスは、短い期間でおさまるウイルスではないなく、感染は世界的に広がっています。
国内の流行がおさまったとしても、国外からウイルスが持ち込まれる可能性も考えられます。
対策が長期にわたることも視野に入れていく必要があるようです。
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