かつては新車を購入し納車された後にかならず“儀式”が存在しました。
・走行距離1000kmまではエンジン回転数を3000回転以下
・急制動/急発進/急加速は控える
・初回だけは走行距離1000kmでオイル/オイルフィルターを交換
等々。
そう「ならし運転」です。
新車は一定距離を走るまでクルマの性能を抑えて走らせる「ならし」が必要でした。
今では「必ず必要」とは言われなくなりましたが、なぜ新車時は“ならし運転が必要なのでしょうか?
クルマは2万点以上の部品で構成されており、その中でも金属同士で触れ合っている機械的な部分は、馴染んでいない状態で急激な負荷をかけると接触面を傷つける可能性があります。
傷つけないためには、ゆっくりと負荷をかけて馴染ませる必要があります。
また、「組み立て時に締めたネジが緩んだり、部品同士が緩んだり干渉したりする可能性がある」と言う考えから生まれたモノだと言われています。
しかし、現在はその考え方が変わってきているようです。
ごく一般的な安全運転を心がければ、各部品の馴染みは自然と出てくるので、ならし運転の必要はないと言います。
その理由は、昔と今では、技術の精度が大きく違うからなのです。
クルマの部品全てに図面の寸法に対して許される「誤差=寸法公差」が存在します。
昔はこの寸法公差が大きかったのですが、現在は工作精度の向上によりその公差はかなり小さくなっています。
また、組み付け精度の向上や検査方法の進化も相まって、わざわざならし運転をする必要がなくなったわけです。
しかしその一方で、日本を代表するスポーツモデル日産GT-Rの取り扱い説明書にはこのような記載があります。
「日産GT-Rは高精度な部品を使用しており、その性能を発揮するためには、新車から一定期間のならし運転が効果的です。新車からの走行距離が2000kmに到達するまで、適切なならし運転を行なうことで、部品のすり合わせが行なわれ、日産GT-R本来の高性能を長年に渡りお楽しみいただけます」
ここでのポイントは「ならし運転が効果的」、「本来の高性能を長年に渡りお楽しみいただけます」という記述です。
それを踏まえて、今でも「ならし運転」は必要だと考えられます。
つまり、ならし運転を行なったクルマとそうでないクルマの差は、新車時には差がなくても、距離を重ねていけばいくほど大きな差となります(もちろん適切なメンテナンスが前提)。
クルマに搭載されるエンジンはもちろんですが、より複雑な機構になりつつあるトランスミッションはその差が大きいのです。
同じ距離を走っているにも関わらずシフトアップ/ダウンの変速ショックや滑らかさが大きく異なることもあるようです。
また、タイヤとボディを支えるサスペンションは、ショックアブソーバーやブッシュの馴染みなどから「本来の性能は1万kmを超えたくらいから」と言われることもあります。
新型車のインプレッション記事の中で「サスペンションの動きが渋い」と言う記載を見かけたりしますが、これは設計上の問題だけでなく、サスペンション(特にショックアブソーバーやブッシュ)などが馴染んでいないことが原因となっていることが多いようです。
ちなみにならし運転は中古車でも行なったほうがいいと言われております。
これは各部品の馴染みを付けるというより、前オーナーの癖を取る事が目的になるのですが、意外と効果があるようです。
このような事を踏まえると、昔のように入念な「ならし運転」をする必要はありませんが、“やるに越したことはない”のが、ならし運転です。
人もクルマも最初が肝心のようですね。
本日も最後までお読みくださりありがとうございました。
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