ストレス学説
第二次大戦中、兵士の精神的・肉体的パフォーマンスを高めるためにありとあらゆる物質の研究が行われました。
アダプトゲンは紛れもなくその成果の一つです。
アダプトゲンの研究はストレス学説を提唱したハンス・セリエの業績を基礎としています。
ストレスを起こす元になるものはストレッサーと呼ばれています。
セリエはストレッサーを
物理的・・・温度、音、放射線など
化学的・・・酵素、薬物、ケミカルなど
生物的・・・細菌、菌類、ウィルスなど
心理的・・・不安、緊張、怒りなど
というふうに分類し、身体がストレッサーに対応する際に見られる反応を汎適応症候群と名付けました。
強すぎる適応反応
重要なのはストレッサーに対抗する際、我々は、ストレッサーの種類に関わらず、一連の生理反応を示すという点です。
日頃、私たちは「抗酸化だ、アンチエイジングだ、抗炎症だ」云々と叫んでいる裏には、今挙げた適応反応が「きめ細かで無い」ため、その軋轢があらゆるカタチで現れるというメカニズムがあります。
どういうことかといいいますと、例えば、釘を打つにはカナヅチがぴったりですが、ゴキブリが出たといってはカナヅチで叩き、ハエや蚊を見つけたらカナヅチで叩き、ということを繰り返しているとしまいには家が壊れてしまいます。
ストレスが大きいと身体は耐えられないが、ストレッサーへの対抗が強力過ぎても身体は壊れるというわけだです。
セリエの学説によるとストレスへの適応期は大まかに3つに分かれます。[1]
警告期・・・ストレッサーによるショックを受け、そのショックへの適応を準備する時期
抵抗期・・・ストレッサーとストレス耐性が均衡している状態
疲憊期・・・抵抗期が長期化しエネルギーが枯渇して身体が衰えてくる時期
兵力増強を命じられたロシアの研究家らはロシアに近い中国北部、黒龍江省の狩猟民たちが喉の乾きや空腹を抑え、夜間の視力を上げるためにシサンドラの実を好んで摂っていることに着目しました[2]
ヘテロスタシス
アダプトゲンはこのストレッサーとストレス耐性が均衡している状態、抵抗期を長くする効果があります。
アダプトゲンによる均衡は通常の均衡状態つまり恒常性(ホメオスタシス)とは異なり、少し高い次元での均衡となるためヘテロスタシスと呼ばれています。
ヘテロスタシスがより高い次元での平衡に向かうほどストレス耐性が増します。
ストレス耐性が増すと、ストレッサーへの反応が適切にマイルドになり疲弊し難くなります。
このことは動物実験と人体実験の両方で確認されています。[3]
最近になってアダプトゲンがもたらすストレス耐性の増強は抗炎症系のリポキシン経路のアップレギュレーション、及びロイコトリエン、プロスタグランジン、トロンボキサンの産生低減、一連の遺伝子発現として表れるなど、分子生物学的に確認されその作用機序は盤石なものとなった感があります。[4]
アダプトゲン摂取により報告されている作用
・中枢神経刺激作用[5]
・神経細胞死の低減[6, 7]
・筋繊維のグルコース取り込み増加[8]
・疲労時における酸化ダメージの低減[9]
アダプトゲンと呼ばれる一連のハーブ類はエピジェンやエピジェン・オーパスでお馴染みですが、何故効くのか?という問いへの回答は難しい。
しかしその「何故?」の部分も解明されつつあります。
ヒートショックプロテイン
実は答えのカギはヒートショックプロテインの増加にあるようです。[10]
HSP(ヒートショックプロテイン)に関しては、伊藤要子先生のページが分かりやすいように思います。https://www.youko-itoh-hsp.com/hsp%E3%81%A8%E3%81%AF/
このページを見るとHSPがいかに免疫力、抵抗力、アンチストレスに有効でしかも無害であるかということが分かります。
単刀直入に言って、アダプトゲンは弱い疑似ストレス(ストレス・ミメティック)であると考えられます。
擬似ストレス物質で予めHSPを増やしてスタンバイしておくと少しくらいのストレスでは炎症が起きにくくなるという仕組みが考えられます。
注意したいのは単品アダプトゲンの大量摂取ますです。
擬似ストレスの側面がある限り、一品を大量摂取するとリアルストレスになり副作用が出てくることが十分考えられます。
可能な限り幅広いアダプトゲンをミックスしたフォーミュラで各ハーブの毒性を抑えることは継続摂取においては非常に重要なポイントです。
最近では標準治療が長期に渡る場合のストレス耐性を上げる目的でアダプトゲンの併用を提案する医師のコラムも目にしました。[11]
出典
1. Selye H. Stress. Acta Medical Publisher; Montreal, Canada: 1950.
2. Kokhanova A.N., Peresypkina N.V., Balagurovskaya E.N., Kotel’nikova K.M., Grigorieva I.T. The effect of Schizandra on muscular fatigue in man. In: Nechaev S.K., editor. Proceedings of the 4th Student Scientific Session of the Khabarovsk Medical Institute; Khabarovsk, USSR: Ministry of Health of Russian Federation, Khabarovsk Medical Institute; 1950. pp. 85–89.
3. Pharmacology of Schisandra chinensis Bail.: an overview of Russian research and uses in medicine.
Panossian A, Wikman G
J Ethnopharmacol. 2008 Jul 23; 118(2):183-212.
4. Alexander Panossian, Ean-Jeong Seo, Thomas Efferth,
Effects of anti-inflammatory and adaptogenic herbal extracts on gene expression of eicosanoids signaling pathways in isolated brain cells,
Phytomedicine, Volume 60, 2019, 152881, ISSN 0944-7113,
5. Stimulating effect of adaptogens: an overview with particular reference to their efficacy following single dose administration.
Panossian A, Wagner H
Phytother Res. 2005 Oct; 19(10):819-38.
6. Salidroside attenuates glutamate-induced apoptotic cell death in primary cultured hippocampal neurons of rats.
Chen X, Liu J, Gu X, Ding F
Brain Res. 2008 Oct 31; 1238():189-98.
7. Salidroside inhibits H2O2-induced apoptosis in PC12 cells by preventing cytochrome c release and inactivating of caspase cascade.
Cai L, Wang H, Li Q, Qian Y, Yao W
Acta Biochim Biophys Sin (Shanghai). 2008 Sep; 40(9):796-802.
8. Salidroside stimulated glucose uptake in skeletal muscle cells by activating AMP-activated protein kinase.
Li HB, Ge YK, Zheng XX, Zhang L
Eur J Pharmacol. 2008 Jul 7; 588(2-3):165-9.
9. [Protective effects of salidroside on oxidative damage in fatigue mice].
Ma L, Cai DL, Li HX, Tong BD, Wang Y, Pei SP
Zhong Xi Yi Jie He Xue Bao. 2009 Mar; 7(3):237-41.
10. [Effect of a Rhodiolae rosea extract on the level of inducible HSP-70 in the myocardium under stress].
Lishmanov IuB, Krylatov AV, Maslov LN, Naryzhnaia NV, Zamotrinskiĭ AV
Biull Eksp Biol Med. 1996 Mar; 121(3):256-8.
11. https://www.healthline.com/health/adaptogenic-herbs#takeaway
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