最近、ながらスマホによる接触事故や歩行者の信号無視、さらに横断歩道のない場所を横断したりする「乱横断」が問題となっています。
警察庁が発表した令和元年の交通事故統計によりますと、道路横断中の死亡事故は減少傾向にあるものの、歩行者の横断者側に法令違反があった割合が65.1%(65歳以下。65歳以上は60.1%)にも上っています。
法令違反の中身(65歳以下)を見ますと、信号無視が最も多く33.3%、次いで横断歩道以外での横断が17.1%、車両などの走行直前直後の横断が15.4%と続いています。
運転する側のドライバーにとっては、交通弱者である歩行者に対して最大の注意を払わなければいけないのは当然ですが、そのいっぽうで、信号無視や乱横断する傍若無人といってもいい歩行者に対しては、なんとか取り締まれないものかと、思う人も多いのではないでしょうか。
交通違反切符に関しても、自動車運転者は交通違反切符を切られることがあっても、歩行者が切符を切られたという話は聞いたことがありません。
そこで、実際のところ、本当に歩行者は交通違反切符を切られないのか?
歩行者をなぜ取り締まれないのか?
歩行者の横断者側に法令違反があった割合が65歳以下で65.1%(65歳以上は60.1%)にも上っています。
つまり歩行者側が第一当事者になっているケースが6割以上ということにもかかわらず、交通違反切符は切られない実情があります。
まず、わかりやすい事例として、歩行者が信号無視で交通違反切符を切られるのか?を考えていきたいと思います。
それと同時に自動車、自転車、歩行者は道交法によってどのように処置されるのか?を考えています。
道路交通法第7条(信号機の信号等に従う義務)
第七条 道路を通行する歩行者又は車両等は、信号機の表示する信号又は警察官等の手信号等(前条第一項後段の場合においては、当該手信号等)に従わなければならない。
わかりやすく言うと、自動車だけでなく、自転車、軽車両、歩行者も信号の指示に従わなければ違反になるということです。
自動車では赤信号を無視した場合、交通違反切符を切られ、普通乗用車であれば違反点数2点、9000円の反則金が科せられます。
最近は自転車でさえも赤切符が切られて罰金を取られるという事例が増えていると言います。
3年以内に2回交通違反をして捕まると5400円の費用がかかる講習会に出なければならないという罰則もあります。
では、歩行者の場合は実際にはどうなのでしょうか?
歩行者が違反すると、道路交通法では「2万円以下の罰金または科料」という罰則が定められていますが、実際には車両のように歩行者が交通違反切符を切られることはほぼありません。
警察官に見つかっても厳重注意程度で済む場合がほとんどです。
赤信号を無視して横断歩道をわたって交通事故に遭ってしまうと、過失の罪に問われるが(後述)、歩行者は交通弱者であるという考えから「歩行者優先」という言葉があるように、ほとんど罰則の対象とはなっていないのです。
そのほか、道路交通法には、車両の運転手に対して歩行者との側方間隔の保持(第18条2項)や横断歩道のない交差点での歩行者優先(第38条の2)など、さまざまな歩行者保護の規定を設けています。
実は歩行者にも道路を通行する際には、自動車・バイクなどの車両や自転車と同じように、歩行者には守るべきルールが定められています。
●信号に従う(第7条)
●歩道がない道路では右側通行(第10条1項)
●歩道(歩道または路側帯)を通行する(第10条2項)
●横断歩道を渡る(第12条1項)
●斜め横断禁止(第12条2項)
●車の直前直後の横断禁止(第13条1項)
●横断禁止場所での横断禁止(第13条1項2号)
●泥酔歩行の禁止(第76条4項)
など
しかし、実際には歩行者が交通違反や交通事故を起こして交通違反証、いわゆる交通違反切符を切られることはまずありません。
それは、この交通反則通告制度という制度が、運転免許取得者がその取得免許で起こした交通違反行為に対して、効率良く処理するための手段だからです。
青切符により反則金、赤切符により簡易裁判での罰金徴収と免停などの行政処分を行ない、ドライバーを処分することで反省を促し、交通安全につなげるとともに、税収と同じく国庫にお金を集めるためのシステムなのです。
そのために免許証には免許番号などが記されており、管理されているのです。
ちなみにマイナンバーは、こうした管理を運転免許以外にも広げよう、という思想の元に構築されたシステムです。
諸外国と日本では交通における法律には若干違いがあるものの、クルマと歩行者との交通事故ではクルマのドライバーに重い責任が課せられることが多いと言われています。
これは歩行者が免許を持っていないから責任が軽くなる、と考えるのは勝手な思い違いです。
歩行者が交通事故などで過失を低めに判断されるのは、クルマなどの乗り物で身体を保護されていない「交通弱者」であるからで、交通事故の民事(刑事罰や行政処分とは違う、当事者間の賠償など)では「弱者救済」の原則から、一般的に被害が大きくなりやすい歩行者や自転車の過失を少なめに判断される場合が多くあります。
歩行者の責任が重くなる交通事故のケースとは?
交通違反切符は切られないといっても、例えば横断歩道のない道路、しかも横断禁止の場所を渡ってクルマと接触してしまったら、歩行者にも責任がおよぶことになります。
信号のある横断歩道での赤信号を無視した横断と、横断歩道以外での横断、いわゆる乱横断が禁止されていることを知らない大人はいないと思います。
それと歩道がある道路では原則歩道を歩くよう義務付けられています。
デモやお祭りなどで大人数が練り歩くような状態では車道を歩く(その場合は道路使用許可などを取得する必要がある)ことが定められていますがそれ以外、例えばジョギング中のランナーも歩行者であり、車道を走っている人も見受けられますが道交法違反になります。
したがって、例えば黒づくめの服装で薄暗くなった夕方以降に車道を走っているような状況で、クルマと接触事故を起こしてしまったら、もちろんドライバーに歩行者に注意して走行する義務はありますが、歩行者であるランナーの方も責任が問われることにもなります。
令和元年に発生した交通事故の死者3215人のうち、約4割が歩行者です。
さらに歩行中死者の約6割には、歩行者側にも横断違反や信号無視などの法令違反がありました。
交通事故による全死者数3215人の4分の1は、自身も法令違反をしていた歩行者ということになります。
実際、2018年6月には、その年の1月に静岡県で起こった歩行者とオートバイによる交差点での接触事故では、オートバイの男性が死亡したこともあってか、歩行者の男性が書類送検されています。
この歩行者は酒に酔い、横断歩道の赤信号を無視して、周囲の安全も確認せずに渡ったことで、オートバイと接触してしまったのです。
書類送検とは、事件や事故の書類が警察から検察へと送られるもので、刑事上の事件(事故)として取り扱う必要がある、と判断したことを意味します。
すべての事故や事件を検察に送ってしまうと、検察がパンクして処理し切れなくなりますので、物損だけの交通事故や、示談が成立している事故など比較的軽度な被害の事件は送検されないのです。
書類送検され、検察が裁判にかけて刑事上の責任を負わせる必要がある、と判断した場合は起訴されることになります。
検察で起訴の必要がない(すでに社会的に制裁を受けている等の理由で)と判断されれば、不起訴や起訴猶予という処分になり、刑事上の責任は問われないことになります。
ちなみに件の事故の場合、オートバイの男性も書類送検されていますが、すでに亡くなっているため不起訴になるのは間違いないのであろうと思います。
歩行者の男性も首の骨を折る重症ですし、責任を問われるとはいえ、最終的には不起訴、あるいは起訴猶予になる可能性も高いと思われます。
それでもオートバイの男性の遺族から民事裁判を起こされて損害賠償を請求されれば、慰謝料を支払うよう命令を受ける可能性はあります。
歩行者と自動車の事故が起きた場合、過失割合はどうなる?
ここで気になるのは事故が起こった場合の過失割合ではないでしょうか。
まず、歩行者が青信号で横断を開始し、四輪車が赤信号で交差点に進入し衝突した場合の基本過失割合は、「歩行者0:運転者10」になります。
横断歩道を渡る歩行者側の信号が赤だった場合、明らかに事故原因の一端は歩行者にあり、信号無視の歩行者と自動車による交通事故の基本過失割合は「歩行者7:運転者3」と、歩行者に不利になります。
信号規制がなく、かつ横断歩道以外で道路を横断する歩行者と自動車が衝突した場合の基本過失割合も「歩行者7:運転者3」となります。
また、ここ数年耳にする、夜間、街灯が少ない暗い道路に横たわっている歩行者と自動車が接触した場合は「歩行者5:運転者5」となります。
※いずれも事故の状況によって実際に決定した過失割合と「基本過失割合」が異なる場合があります。
免許がなければ何をしてもいいというのは勝手な思い込みに過ぎません。
自転車だろうが歩行者だろうが、この日本国内で生活している以上、日本の道交法に則った行動をする義務があります。
また自転車の取り締まりは年々強化されています。
免許取得者であれば、厳しい処分が下される可能性もあります。
自分の身を守るためにも、道交法を理解した上で、周囲の状況を常に判断して、運転や移動することを心がけたいですね。
たとえ、交通弱者とされる歩行者であっても、信号無視などの交通違反により死傷事故が誘発された場合は、立件されて罰せられる可能性も高くなることを知っておきましょう。
もちろん、損害を賠償する義務があることも忘れてはなりません。
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