今回のテーマは「ホルモン」である。
「お肌のゴールデンタイム」の話じゃないの?
と思われたかもしれないが、
まあそうあせらずに。
もちろんホルモンと言っても
睡眠不足の疲労感が
「ミノ」や「ハツ」を食べれば
解消できるという話ではなく、
体内で分泌される方のホルモンである。
ホルモンと睡眠・体内時計との関係は古くから調べられており、
このテーマだけで一冊の教科書にもなっているほどだが、
その膨大な知見の中から、
今回はホルモンの分泌調節に睡眠と
体内時計が果たす役割についてご紹介する。
その特徴を理解していれば、
睡眠とホルモンに関する代表的な都市伝説
「お肌によい成長ホルモンは深い睡眠で分泌される。
そのゴールデンタイムは22時~深夜2時」
の誤りも一発で見抜けるのである。
ホルモンは主要なものだけで30種類以上あり、
未知のホルモンも多数あると考えられている。
少し難しくなるがホルモンの役割とは、
体内環境の変化や体外からの刺激に
反応してそれぞれ特有の臓器で作られ、
血液などに乗って移動して、
他の臓器や血球などの細胞に働きかけ、
体内環境を正常に保つように作用することにある。
例えば、私たちの食欲や栄養の供給も
ホルモンによってうまくコントロールされている。
食事を減らしたり抜いたりすると、
グルカゴンと呼ばれるホルモンが増える。
このホルモンは肝臓に貯蔵された糖の一種である
グリコーゲンを分解して血糖が下がりすぎないように維持する。
逆に血糖を下げるホルモンである
インスリンの分泌は抑えられる。
また食欲が増すホルモンである
グレリンの分泌量が増え、
食欲が低下するホルモンであるレプチンは
抑えられて摂食を促す。
.
怪我をしてもホルモンが活躍
怪我をしたときもホルモンは活躍する。
細胞の修復を促すコルチゾール(副腎皮質ホルモン)が、
副腎から多く分泌される。
コルチゾールは過剰な免疫反応や炎症も抑える。
体を異物から守る免疫が活発になりすぎ、
かえって体にダメージを与えるのを防ぐためである。
また、グルカゴンと同様に
全身の細胞の第一のエネルギ源である
糖の産生を促して脳や組織の活動を支える。
これらの例を見ても分かるように、
ホルモンの活動は人の行動と密接に関わっている。
そのため、ホルモン分泌は我々の活動や休息、
1日の時刻とうまく連動する必要があり、
ほとんどは睡眠と体内時計の両者の影響を受けている。
とはいえホルモン分泌は
「主に睡眠による支配を受けるもの」と
「主に体内時計の支配を受けるもの」の
大きく2つに分けられる。
「体内時計による支配」を受けるホルモンの代表が、
先のコルチゾールや、甲状腺刺激ホルモン 、メラトニンなどである。
個別の詳しい説明は割愛するが、
これらのホルモンは心身を目覚めさせたり
逆に眠気をもたらす作用があるため、
昼夜のリズムに合わせて分泌を
増減させる必要があったのだろう。
一方、主に「睡眠による支配」を受けるホルモンの代表が、
成長ホルモン、乳汁分泌を促すプロラクチン、男性ホルモンである
テストステロンなどである。
一般的にこれらのホルモンは時刻とは関係なく、
睡眠中に分泌が高まる。
普段寝ている時刻でも徹夜をしていると分泌が抑えられるのである。
プロラクチンは乳汁の分泌を促すほか、
妊娠中には女性ホルモンの分泌調節に関わって母胎を安定させ、
育児期には母性的行動の源となって
子供を外敵から守るなどの行動をとらせる。
乳幼児の睡眠リズムは不規則で
寝起きの時間が昼夜に分散していることを考えると、
特定の時刻でプロラクチンの分泌が高まるよりも、
睡眠(覚醒)の時間帯と連動していた方が
育児や授乳にとって都合がよいだろうな、
と連想いただけるのではないだろうか。
本当に成長ホルモンのおかげ?
さて、いよいよ成長ホルモンである。
ここで先の都市伝説を再掲してみる。
明らかな間違いが1カ所、怪しい点が1カ所ある。
「お肌によい成長ホルモンは深い睡眠で分泌される。
そのゴールデンタイムは22時~深夜2時」
明らかな間違いについてはすでに読者の皆さんはお気づきだろう。
そう、「ゴールデンタイムは22時~深夜2時」である。
22時~深夜2時に眠れば、
その間に成長ホルモンがバンバン分泌されるという意味である。
しかし、先述のとおり成長ホルモンは主に
睡眠による支配を受けており、
現実世界の時刻は実は関係なく、
睡眠、特に深いノンレム睡眠(徐波睡眠)中に集中して分泌される。
同じ睡眠でもレム睡眠中には覚醒時と同じ程度にまで分泌量は低下する。
この誤解はおそらく平均的な睡眠時間帯が
深夜0時ころから始まり、深いノンレム睡眠が睡眠開始から
最初の2、3時間で出現することが多いために派生したのだろう。
夜勤明けの看護師さんは
帰宅してから寝ても成長ホルモンは分泌されるのでご心配なく。
それにしても成長ホルモンに対する
女性の思い入れには並々ならぬものを感じる。
大人になってもまだ大きくなりたいのかと思ったら、
お肌によいからだという。
残念ながら大人になると体内で作られる
成長ホルモンは成長期よりも格段に減ってしまう。
それを目一杯活用してもお肌にどの程度の効果があるか疑問である。
少なくともその効果を科学的に証明した研究はない。
成長ホルモンよりも、寝不足による疲労やストレス、
肌の乾燥の方がよほど悪影響があるように思われる。
これが「怪しい点」である。
本日も最後までお読みくださりありがとうございました。